東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10664号 判決 1969年2月18日
原告 破産者有限会社三恵シャッター製作所破産管財人 斎藤義夫
被告 山田由太郎
右訴訟代理人弁護士 久保千里
被告 柳沢正高
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
<全部省略>
理由
一、請求の原因第一、第二項の事実は支払停止日の点を除き当事者間に争いがなく、破産者が、昭和三九年九月二八日不渡手形を出して支払停止をしたことは、<証拠>により認められる。
二、抹消登記請求について
<証拠>によると、被告山田は、昭和三九年四月二四、五日ごろ、破産者との間で被告らの抗弁第一項記載の契約をして、右契約に基づき同月末日ごろまでの間に破産者に対し、金五〇〇万円を貸付けたこと、破産者は、右契約に基づき、同月末日、右貸金の担保として被告山田のために本件土地、建物の売買予約による所有権移転請求権保全仮登記をなし、そのころ、被告山田に対し、仮登記を本登記にするための印鑑証明、委任状等を交付し、印鑑証明は有効期間が経過するころ新しいものを交付していたこと、破産者が弁済期を経過しても貸金を弁済しなかったので、被告山田は、昭和三九年一〇月二二日ごろ、破産者に対し仮登記を本登記にする旨通知して売買予約を完結したことが認められる。これによれば被告山田は、同日破産者から、売買予約の完結により、本件土地、建物の所有権を取得したわけである。<省略>。
そうすると、破産者は本件土地、建物の所有権を失ったから、破産者が所有権を有することを前提として本件各登記の抹消登記手続を求める原告の被告山田に対する請求は、理由がない。
三、否認の請求について
原告は、破産者が支払停止後の昭和三九年一〇月二二日に本件土地建物を売り渡した旨主張し、(土地建物所有権移転登記申請書)の登記原因及びその日附欄には昭和三九年一〇月二二日売買と記載され、(登記簿謄本)にも同趣旨の記載がある。しかし、被告山田本人尋問の結果によると、被告山田は前記二において認定のとおり売買予約の完結により本件土地、建物の所有権を取得したので、売買予約の仮登記の本登記をなすべきところ、登記手続の便宜から登記申請書に昭和三九年一〇月二二日に売買契約があったように記載して申請し、その旨登記がされたので、登記関係書類に同日売買の旨記載されたことが認められる。そうすると前記証拠の記載によっては、原告主張の同日売買の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。従って、同日の売買を否認権行使の対象とする原告の被告らに対する請求は、否認原因を欠き失当ということになる。
なお念のため付言すれば、売買予約の完結は支払停止後になされているが、これは支払停止前に破産者との間に締結された売買予約に基づき、被告山田がした一方的意思表示であって、破産者の行為ではないから、売買予約に否認原因のない限り、右行為を否認することはできない。そして、売買予約に否認原因のあることについては、主張立証がない。
また原告は登記の否認をも主張するが、本件土地、建物の所有権移転が原告主張のころなされたことを認めるに足りる証拠はない。かえって前認定のとおり、売買予約の完結による所有権移転は昭和三九年一〇月二二日ごろなされ、これに基づく所有権移転登記は、同月二三日になされた。これによれば、権利移転の日から一五日以内に本件所有権移転登記がなされたのであるから、右登記の否認の要件を欠くことになる。
そうすると、原告主張の被告山田に対する売買およびその登記の否認原因はいずれもこれを認めるに足りないから、右否認の原因の存在を前提とする原告の被告らに対する請求もまた理由がない。<省略>。